世界で一番かっこいい人
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『世界で一番かっこいい人』
世界で一番かっこいい人がいました。
すらっと伸びた手足、整った顔、どこから見てもかっこいいのです。
彼の容姿に惹かれ、みんな彼に近付いていきました。
彼は思いました。
「俺はかっこいいから、みんな近寄ってくる。」
「俺は選ばれた人間だ。人気者だから何しても許されるだろう。」
それから彼は人を見た目で判断し、自分より劣っていると思った人を片っ端から見下しては、罵倒するようになりました。
彼に腹を立てた人がだんだん増えていき、彼から離れていきました。
彼は独りぼっちになりました。
寂しくなった彼は、みんなのいるところに行こうと思いました。
すると、彼に気付いたみんなは、彼に言いました。
「こっちに来ないで。あんたなんか大嫌い。」
彼は言いました。
「なんでみんな離れていくんだよ。」
女の子が言いました。
「自分が今までみんなにしてきたことを考えてみなさい。」
そうなのです。
みんなの態度は、少し前の彼の態度そのものでした。
それからというもの、彼は来る日も来る日も独りぼっちでした。
とうとう彼は泣きました。
「俺が悪かった。許してくれ。」
しかし、その声が届くことはありませんでした。
そんなある日のこと、1人の男の子が大きな木の前で泣いていました。
「どうしたの?」
彼は男の子に聞きました。
「風船が・・・」
男の子は大きな木に指差して言いました。
風船が木に引っかかっていたのです。
「お兄ちゃんが取ってあげるね。」
彼はそういうと、今までしたこともない木登りをし始めました。
登るにつれて、服は汚れ、手足も汚れ、木のとげで手から血が出てきました。
風船に辿り着いた時には、全身ボロボロでした。
今にも飛んでいきそうな風船。
彼は一生懸命手を伸ばし、なんとか風船をつかみました。
その瞬間・・・
どーーーーーーん。
彼は地面に真っ逆さまに落ちてしまいました。
落ちた拍子に、顔に傷をおってしまいました。
前のかっこいい彼が、そこにはいませんでした。
「俺・・・かっこわるいな・・・」
彼がそう言うと、男の子が言いました。
「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんは『世界で一番かっこいい』よ。」
「お兄ちゃんが・・・世界で一番かっこいい?」
彼は目を丸くしました。
「うん。お兄ちゃんは僕にとって、一番かっこいい。お兄ちゃんは、僕の為に一生懸命になってくれた。かっこよかった。僕もお兄ちゃんみたいにかっこよくなりたい。」
それを聞いた彼の目からは、ぽろぽろと涙がこぼれていました。
それから彼は、男の子と遊ぶようになりました。
すると、日に日に男の子の友達が彼に近付くようになりました。
男の子はみんなに言いました。
「お兄ちゃんは、人の為に一生懸命になれる、僕にとって『世界で一番かっこいい人』だよ。」
彼は嬉しくて泣きました。
もう以前の彼は、そこにはいません。
初めて、誰かの為に何かしたいと思えたこと。
初めて、誰かの為に何か喜ぶことができたこと。
それが、どんなに嬉しくて尊いものかを知ったのです。